「出発は遂に訪れず」 これが短編集の表題にもなっている。 13日の夕方、特攻隊発動の信令を受けてから発信の合図のないまま玉音放送を聞き部下にそれを伝えるまでの「私」(島尾=S中尉)の行動と想念を描く。 一夜明けた14日。経験がないためにそのどんなかたちも想像できない戦いが、遠まきにして私を試みはじめる。 今度こそたしかと思われた死が、つい目の近くに来たらしいのに、現にその無慈悲な肉と血の散乱の中にまきこまれないことは不思議な寂しさともなった、、不思議な寂しさ! こういう感じを持った男がどうやってその後の生を生きられるというのか? (高田馬場・「諏訪神社」) すべてを特攻という目的のために準備してきて、いよいよその時が来たと思ったら、、今私を取りまくすべてのものの運行は、はたとその動きを止めてしまったように見える。(略)矛盾したいらだちにちがいないが、からだは死に行きつく路線からしばらく外れたことを喜んでいるのに、気持ちは満たされぬ思いに取りまかれる。そうはいいながらも体は生を欲して湿ったベッドでも眠ってしまう。もうすぐ死ぬのだからという理由で睡眠と食慾を猶
死ぬ地獄から生きる地獄へ 島尾敏雄「出発は遂に訪れず」(新潮文庫)(2)
9月 25th, 2008
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