昭和二十一年戦後の旅(四) 歩いた疲れでぐっすり眠った翌朝、目をさますと川の音がするので、ああ山の温泉に来ているのだと気がついた。朝六時という、自宅では考えられない早朝に起きて、すぐ入浴に行った。谷の底だから、まだ山には日が当らないが、空は真っ青に澄んでいた。山にはびっしりと木が茂り、濃い緑色に沈んでいた。日本にはこんなに美しい場所もあるのかと思った。 温泉宿では湯に入るのが仕事だというので、この日は五回も風呂に入った。傷や皮膚病にも効くということだから、できものの根治がなかなかできない私の体質改善にも役立つと思われたのだろう。湯を飲むこともすすめられた。ぬるっとしてやや酸味があったが、飲みにくくはなかった。他に老人の湯治客が何人かいて、父は誰とでも、よく話し込んでいた。ぬるい湯だから、いつまで入っていてものぼせることはない。飽きれば外の河原の露天風呂へ行った。大浴場から出た湯が滝で落ちるようになっているから、肩に当てて打たせ湯ができるのだった。 従兄はお茶や椎茸の農作業が忙しいということで、一泊だけで帰って行った。帰る前に、翌日分も含めて飯を炊いたり、芋を煮たりしてくれた。その後は父
少年期の戦中と戦後(85)
5月 27th, 2009 · No Comments
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