喚起力がすばらしい。その場にいないとわからない感覚を、あたかも自身の肉体を通しているかのような読書にハマる。 たとえば、台風が近づいてくるとき、じっとりと息苦しくなる。からだ全体が押し付けられたようになり、声がうまく出ない。物音の伝わり方がこもった感じになり、世界がまるで変わってしまう──そんな感覚に襲われたことがないだろうか。空や、風といった景色ではなく、もっと身体的な変化に驚かされることがある。 これを、ル・クレジオは次のように書く。大型サイクロンが襲ってくる場面だ。 ぼくたちの体の一番奥深くに入ってくるあの静寂、悪い兆しと死を思わせるあの静寂こそ、忘れられないものだ。木々に鳥の姿はなく、虫もなく、モクマオウの枝を吹く風の音さえしない。静寂は物音よりも強く、物音を呑み込んでしまう。すべてが空ろになり消えてなくなる。ぼくたちはベランダでじっとしている。濡れた服のままでぼくはぶるぶる震えている。口を開くと、声は遠くのほうでふしぎな響きを立て、言葉はたちまち消えてしまう。 終始こんな感じ。 「静寂は物音よりも強く、物音を呑み込んでしまう」 なんて、読んで初めて「あの
体験を追走する「黄金探索者」
7月 2nd, 2009
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